【バンド小説】FooLs 第2話「向き合うことを」

【第1話 FooLs(フールズ)】

 ———この世の中で、自分の夢を実現できる人が、いったいどれくらいいるだろうか。

「…何? またそんなもの触ってるの? そんなことしてる暇があったら、さっさと部屋で勉強しなさい」

「……」

リビングで愛用のベースを手入れをしているだけで、母親から向けられる冷たい視線。

俺は無言のまま、テーブルに広げていた道具を片付けて部屋へと戻った。

『え? お前まだバンドやってんの? 飽きないねー笑』

高校時代、同じバンドで活動していた友人から送られてくる、無神経なメッセージ。

強く反応するのも面倒で、適当に返信してスマホを閉じた。それをベッドに放り、床に置いたベースを構える。

中学3年の時、小遣いを貯めてようやく手に入れたベース。それから丹念に手入れして、壊れかけても修理に出して決して新しいものを買おうとは思わなかった。

自分に合うように改造もした。バイトで稼いだお金はほぼ全部、ベースと音楽に注ぎ込んできた。

だから周りが何を言おうとも、俺はこのベースを手放す気はない。

「……よし」

机の上には一応勉強用の道具も用意してあるが、それにはチラッと視線を向けただけで床でベースを弾く。

スピーカーを通さずとも、耳に心地いい低音。弦が空気を震わせて、勢いが衰えることなく体の芯までも震わせる感覚。

ギターほどの複雑さは出せないし、ドラムほどの迫力はない。バンドの演奏になれていない人では、ベースの音を聴き分けるのも難しいだろう。

「バンドを組む時にギターになれなかった人の余りもの」「目立ちたくない人が選ぶ楽器」「初心者がギターより簡単そうだから始める」とか、そんなイメージもあると思う。だけど。

曲によってはボーカルやギターよりも目立つ。

ドラムに負けないくらい空気を震わせる。

それが、ベースという楽器。

張り替えたばかりの1弦に指をかけ、少しだけ力をこめる。硬くもなく柔らかくもない、適度な弾力が返って来る。

少しだけ息を吐いて、曲の練習を始めた。

**********

高校時代にバンドを組んでいた仲間や軽音部の仲間達は、部活を引退し受験期に入った途端、まるで夢から覚めたように徐々に音楽から離れていった。

そして皆が口を揃えて「所詮は素人、趣味のレベルだった」と言う。

バンドを組んで活動をしていた時は、皆が本気で挑んで、本気でプロを目指していたはずなのに。どんなに辛い練習も、客が集まらないライブだろうと最後には笑って過ごしていたのに。

そんな中、部活を辞めても一般のバンドへと籍を移し、受験勉強もそこそこにベースをひたすらに続けた。

その結果が、大学不合格。

親からは失望され、先生からは呆れられ、友人からは馬鹿にされた。「バンドなんて、音楽なんてやってるから」と。

それでも俺が音楽を、ベースを手放さなかったのは一種の意地もあったと思う。

でも、それ以上に俺は音楽から離れたくなかった。今も変わらず、だ。

———なのに。

「……は? 解散?」

「あぁ」

間近に迫ったライブの練習の為、いつも借りているスタジオに到着し全員が集合した直後。

バンドのボーカルでありリーダーであるカズキの言葉に、俺は驚愕のあまり固まってしまった。

全員が20歳を超えた年齢であり、最年長のカズキは25歳。会社務めをしながら活動しているのが5人メンバーのうち3人、カズキはその一人。

そして、解散を言い出したのは会社務めメンバーの3人だった。

カズキは残りの二人、セイジとリュウと顔を見合わせると申し訳なさそうに頭を下げる。

「本当にすまない。だけど、正直に言ってこのままバンドと仕事を両立するのは……限界だ」

「だったら! バンドを続ければいいだろ⁉︎

「アキラ…無理言うなよ。俺には家族がいるんだぞ」

そういって俺の肩を叩くセイジには、すでに妻と子がいる。それは知ってる。だけど。

「次のライブは⁉︎ もう本番は4日後だぞ!」

「それは俺の方からライブハウスに連絡する。こっちの身勝手だからな、頭を下げて来るさ」

「…そんな……おい、タツも何か言えよ! 解散で良いのかよ⁉︎

メンバーで俺と同じくフリーターとして生活をしているタツを振り返るが、目が合った途端、アイツはサッと目を逸らした。

「…悪い、アキラ。俺も解散の話は聞いてたんだ」

「それで何も感じないのか⁉︎

「正直、俺もこのバンドじゃ食っていける自信がない。さすがにこのままじゃ、両親に申し訳ないと思ってた。そろそろ本格的に仕事を捜そうかと考えてる」

「……嘘、だろ」

つまり、俺以外のメンバー全員が解散を望んでいるということ。しかも俺がいないところで、話は進んでいたんだ。

ほら、まただ。「音楽で食っていけない」「成功するわけない」って。

コイツらは違うと思ってた。高校時代の仲間や、両親達のような大人と。

なのに———今のコイツらの目は。顔は。

「わかった」

「…アキラ」

「だけど! ライブには俺だけでも出る! 俺は音楽を辞めない、諦めないぞ‼︎

「あ、おい!」

カズキの声を背中で聞きながら、俺は壁に立てかけていたベースを肩にかけスタジオを飛び出した。

街中の人混みを、たまに人にぶつかりながら駆け抜ける。迷惑そうにこっちを見て来る周囲の視線にせえも、無意味に感情を揺さぶられた。

周囲の誰もが自分の敵に思えてくる、そんな風に感じてしまう自分自身にさえイライラする。

くそっ、と呟くように吐き捨てて、俺はとにかくスタジオから離れるために脚を速めた。

そして、気付けば見知らぬ公園に辿り着いていた。中央に噴水のある、かなり大きな公園だ。ここまで大きな公園、家の近くにはなかった。ということは、随分と遠くまで来てしまったのか。

今日は休日で、天気の良い。噴水の周りには水遊びをする子供と、それを見守る大人。公園内を散歩する奴や犬を連れて歩いている奴と、多くの人で溢れていた。

家に帰っても母親から勉強をしろとネチネチ言われるだけだろうし、俺は運よく空いていたベンチに腰かけた。

暑くもなく寒くもなく、外を出歩くには最適な涼しさをのせた風がサワサワと吹き抜ける。どこか気の抜ける風に、波立っていた気持ちを落ち着いてきた。

カズキには「一人でもライブを」と言ってはみたものの、実際の所、一人では到底無理だ。

ベースの弾き語り、というのもないわけじゃないが、今はバンド用の曲しか練習していない。たった4日でライブで聴かせられるほどのものは、俺の実力じゃまだ難しい。

それにライブハウスにはバンドとして演奏する、っていう話で出演させて貰えたんだ。もしかしたら、一人になったと伝えた途端、断られるかもしれないな。

思わず、ハァと深いため息がこぼれた。公園の明るい穏やかな雰囲気から浮いている自覚がある分、余計に憂鬱になる。

…もしかしたら、ここが俺の限界なのかもしれないな。

つい、そんな事まで考えてしまっている時。

『―――』

「…ん?」

どこからか、微かに女の歌声が聴こえてきた。アコギの音も交じっている。

こんな所でストリートか? と思ったが、同じフレーズを何度も歌い直しているから、どうやら練習中のようだ。

無意識にその音へと意識が向く。

『―――』

『…あ、マキさん。そこ歌詞違う』

『え⁉︎ あ、ホントだ』

『よくそこの部分間違うけど、イメージが違うなら変えますか?』

『うーん……そうだね。ここは今の方がシックリくる気がする』

 男の声は、たぶんギターを弾いていた奴だろう。男の指示を受け、女がまた同じフレーズを歌い出した。

『―――』

『……うん、良いと思いますよ。今の方が楽しそう』

『でしょ。よしっ、じゃあ最初からお願いできる? マサ君』

少しの間をあけて、また女の歌声が聴こえてきた。

そういえば……ソロで歌ってるマキって名前の女がいたな。前に一度だけ、同じライブに出たことがあったはず。

すごい真っすぐで、胸に響くような歌い方だと、当時も感じていた。

そして、今は更に歌声に磨きがかかったように思える。

男のギターも、決して素人の音じゃない。ちゃんと女の声を聴いたうえで弾いているのが分かる。

自分ばかり主張しない、相手のことも尊重した演奏は俺が目指す音楽にすごく近かった。思わず耳に届く曲に、勝手にベースのリズムを入れ指をそれを刻んでいた。

…不思議だ。さっきまで「もう無理かもしれない」って思ってたのに。

アイツらの音楽は聴いてるこっちにまで音楽がしたいと、一緒に演奏したいと思わせるようなもので———それは、プロでも難しいことなんじゃないか。そう思えた。

暫くベンチに座ったまま、どこからか流れてくる二人の音楽に耳を澄ませていたが、西の空が赤くなり出す頃にやんでしまった。

すぐには動く気にはなれず人気の減った公園のベンチで一人、ただボーッと空を眺める。

そうしてると頭の中がスッキリして、今後、俺がやるべき事が分かった気がした。

「……よし」

**********

カズキからバンド解散の話を聞かされてから4日後。本番当日、会場となるライブハウスがあるビルの前に俺はベースを肩にさげて立っていた。

あれから家や公園で一人、大急ぎで、だけど丁寧に練習して。新しい曲を覚えるのは無理だと判断して、バンドでやるつもりだった曲をベースソロ用として少しアレンジしてみた。

自分なりに、やれるだけの事はやった。たぶん、これまでで一番真剣に音楽と向き合った。

その結果が「何が何でも音楽を続ける」なんだから、俺は世間的には馬鹿な奴なんだろうな。

ライブハウスはビルの地下1階にあって、階段入口前には三角立ての看板が立てられていた。そこに俺達のバンド名が書かれていて、心に罪悪感が湧く。

カズキにはライブハウスには何も言うなと釘を刺した。だから、まだ俺らがバンドとして出演すると思ってる。

でも。

「―――ふぅ」

意識して息を深く吐いて階段を降りる。降りた先にはいろんなステッカーが貼られた黒いドア。それを降りた勢いのまま開けた。

「おはようございます!」

「…お、今日のゲストか?」

「はい! ……えっと、ここのボスですか?」

「ボス……くくっ。あぁ、そうだよ」

店内に入ると、カウンターに男が一人立っていた。30代くらいだろうか、俺の言葉に楽しそうに肩を震わせている。ボス呼びってそんなに変か?

まだ営業時間じゃないからか店内にはそのボスくらいしかいなくて、照明もまだ明るかった。

まだドアの前に突っ立ている俺に、ボスが手招きをしてカウンター前の椅子を指差した。座れ、ということらしい。ペコッと小さく会釈して、椅子に座る。

ちょっと待ってな、と言うボスは壁棚からグラスを一つ取り出すと、それに氷とお茶を入れて俺の前に置いた。

「悪いなー。まだ舞台の設置とかいつもやってるバイトが来てねぇんだわ。もう少ししたら来ると思うから、それ飲んで待っててくれ」

「いえ……あの、実は———」

親切にしてくれているボスに申し訳なく思いながらも、俺はバンドが解散してしまったこと、どうして解散したのか、そして今日のライブは俺一人でもやらせてほしいことを伝えた。

頭が悪い俺の話はすごい分かりづらかったと思うが、ボスは真剣な顔で最後まで聞いてくれた。

全部を話し終えた俺は、黙って腕を組み考え込んでいるボスの返答を待つ。

いくら俺が音楽を続ける決意をしたところで、ボスが出演を拒否したら終わりだ。粘るつもりではいるが、ボスだって商売をやってるんだ。あまり、迷惑はかけられない。

ゴーンという冷房の音と壁にかけられた時計の針が進む音、目の前に置かれたグラスに入っている氷が溶ける音さえも聞こえてきそうなほど、全神経が張り詰めてるのが分かる。

時計の針が進む音が3回耳に届いたところで、ボスが口を開いた。

「…いいんじゃないか? やれる事をやってみろ」

「っ! あ、ありがとうございます!」

「ただし。さすがに一人では出してやれない」

「えっ! で、でも俺のバンドはもう解散して…」

「まぁ、待て。そろそろ来るだろうから……お、噂をすれば」

焦る俺を片手で制し、ボスがドアへと視線を向ける。俺もそっちを向くと、何やらドアの外から男女の声が聞こえてきた。

…あ、この声。確か…。

俺が記憶を辿っているうちに、ドアが開かれその男女が中に入ってきた。

「まったく……マキさん、さすがに買い食いし過ぎですよ」

「えー、そんなに買ってないよ。それに私だけで食べるわけじゃないもん! 谷さんの分もあるんだからね!」

「はいはい…」

姿が見えた二人は同じように肩にギターケースを掛けているが、男の方は両手いっぱいに色んな店の紙袋を提げていた。

言い合いをしていた二人がカウンター前の椅子に座る俺に気付くと、慌てたように頭を下げてきた。

「あ、すみません。もうお客さんが来てたんですね」

「すみません、少し遅れました。急いで舞台の準備します」

「ちょっと待て、マサ。あとマキさんも、一つ相談がある」

舞台へと向かおうとした、マサというらしい男を呼び止めカウンターまで寄らせる。

俺も何事かとボスの方へと向き直ると、ニヤニヤとした、何やら企んでいるような笑みを浮かべていた。

そして、俺と、二人に向かって。

「お前達3人、今から出番までにちょっくらバンド組んで来い」

「……は?」

思わず口から零れた呆けた声。初対面の大人に失礼かもしれないが、俺は内心大パニックでそれどころじゃない。

…いや、聞き間違いか? どう考えても無理だろ、俺達のバンドが出る予定だった時間は今から3時間後だぞ?

そう思って二人を振り返ると、俺と同じようにポカンとした顔をしていた。そりゃ、そうだよな。

「…あー、谷さん。とりあえず、事情を説明してもらえますか?」

先に我に返った男の方が、俺の方をチラッと窺いながら困ったように頬をかく。よく見ると、俺よりも年下のようだ。

女の方は何故か嬉しそうで興味津々という表情で俺をガン見してくるんだが……な、なんかしたか俺。

ボスが俺の事情を俺よりも簡単に分かりやすく説明してくれ、二人は納得したように頷きながらも同情した目で俺を見る。

なんとなく、そんな風に見られるのが嫌でフッと視線を逸らした。

「事情は分かりました……任せてください!」

「ちょ、マキさん…」

逸らした視界の端で、女が自信満々に胸を張って言い切っているのが見えた。

驚いて振り向く俺に女は満面の笑みをみせ、片手を差し出してくる。

「私はマキ! 基本はソロで活動してるんだけど、ここでライブする時だけはマサ君と一緒に演奏させてもらってる。ボーカルとギターが出来るよ」

「はぁ……ベースの瀬永晶、です」

勢いに負け差し出された手を握り返すと、嬉しそうに上下にブンブンと振られる。

それを隣で見ていた男も、溜息をつきながらも諦めた笑みを浮かべて手を差し出したきた。

「俺は深山真斗、ギターをやってます。普段はここで舞台設営とか演出とかのバイトをしてます」

「…よろしく」

「マサ君、って呼んであげてね!」

「……いや、もう何でもいいです」

楽し気なマキと対照的に苦笑するマサに小さく頭を下げるも、まだ状況が呑み込めていない俺はボスの方を振り返った。

「あの……この二人とバンドとして出ることが、今日のライブに出る条件、なんですよね」

「あぁ、そうだ。二人とも素人じゃないから、ある程度ならカバーできると思うぞ」

「いや、それはありがたいですけど……そんな、いきなりバンドを組め、と言われても」

今日、初めて知り合った二人といきなり本番なんて出来るのだろうか。

俺は二人の演奏、というか練習で音を聴いたことがあるとはいえ、それも二人の曲だ。対してマキ達は俺が今日演奏するバンドの曲も、俺の音も聴いたことがないはずだ。

どう考えても、成功するとは思えない。俺だけならともかく、二人にまで大勢の客の前で恥をかかせることになるかもしれない。

俺が遠慮しているのが分かったのか、マキとマサが顔を見合わせるとマキの方が俺に歩み寄ってきた。

「ねぇ、君はなんで一人でもライブに出ようと思ったの?」

「…そんなの、俺が出たいからに決まってるだろ」

「もともとバンドとして出ようとしてたんだから、もしかしたら谷さんやお客さんからもブーイングが来たかもしれないよね? しかもバンドの曲をベースだけで演奏するなんて、失敗する確率の方が高いと思うけど」

「そんなの関係ねぇよ。成功するとか、失敗するとか」

「でも、私達に遠慮したのって失敗するかもしれないからだよね?」

そこまで顔に出ていたのだろうか。当たり前のようにマキに言い当てられ、思わず黙ってしまう。

それで俺の答えが分かったのか、マキは優しい笑みを浮かべた。

「うん。私達を心配してくれたんだよね」

「……だって、普通は気にするだろ。失敗して、恥をかくのは誰だって御免だ」

「じゃあ、君が恥をかくのも覚悟でライブに出ようとしたのは、何故かな」

マキの促すような視線と、マサの真面目な顔、後ろに立っていて姿は見えないが俺達の話を聞いているであろうボスの気配に、俺は一度息をはいた。

緊張した時とか、何か大きな事をやろうとする時に出る俺の癖。大きく息を吐くと、心の中の嫌なもんまで吐き出されるような感じがする。

そして、俺はマキの目を真っすぐに見返して答えた。

「そんなの、俺が音楽が好きだからに決まってるだろ。俺はバカだから難しいことは分かんねぇ。それでも『音楽が好き』だってことくらい、自分の心ん中くらい分かる」

音楽を始める理由なんて、みんな『音楽が好き』って、ただそんな単純なもんだったはずだろ。

なのに……なんで周りの奴らは『これで食っていけない』『所詮、趣味レベル』って、音楽と向き合うのを辞めちまうんだ?

「恥をかくくらいなんだってんだ。俺は恥をかくことなんかより、音楽を辞める方が嫌だ」

「……瀬永さんは、音楽が本当に好きなんですね」

どこかしみじみと言うマサにも、当たり前だろ、と返す。じゃなきゃ、俺は当の昔にベースなんて捨てて、今頃はレベルが低くてもどっかの大学に行ってただろうからな。

確かに両親には悪いと思うが……誰がなんと言おうが、これは俺の人生だ。たとえ仕事としては音楽で失敗したとしても、死んだって後悔はしない。

俺の言葉を黙って聞いていたマキは、うんうんと一人で何やら頷いている。

かと思えば、突然、俺の手をガシッと握ってきた。

「うぉっ」

「よし、じゃあ私達は仲間だ! 同じ音楽を目指す同志だ!」

「お、おう。ありがとな……?」

よくわからないが、何かに感動しているらしい。かなり強い力で手を握られている。

「となれば、さっそく練習しようか!」

「…本当にいいのか?」

「私だって伊達にソロで活動してたわけじゃないんだよ? 恥なんて昔に散々かいたし、慣れっこだよ」

「俺も別に構わないですよ。久し振りにベースありで演奏もしてみたいですし」

俺の心配とは裏腹に、二人は随分とケロッとした表情で準備するために動き出した。

マサはバイトとしての仕事があるから、まずは舞台のセッティングをするために一旦カウンター奥の部屋へと引っ込み、マキはさっそくケースからギターを取り出した。

逆に俺の方が大丈夫なのかと不安になってくるが、ここまで来て後戻りもありえない。

それに公園で二人の音楽を聴いて、一緒に演奏したいと思ったのは本心だ。だから、今の状況にワクワクしているのは確か。

こういってはなんだが…カズキ達と一緒にバンドを組んでいた時よりも、二人と臨時バンドを組んでやるライブの方が楽しみだと感じている自分がいる。

「ほら、アキ君! 早く練習しようよー」

「ア、アキ君?」

突然のあだ名呼びに戸惑いながらも、俺もベースを肩にかけ直し舞台へと向かう。

椅子から立ち上がった直後、振り返った先のボスが笑って手を上げてくれたのが、応援されているのだと分かって嬉しくなる。

音楽を否定する奴だけではないんだと実感できる、こういう瞬間が凄い好きだ。俺も笑ってボスへと頭を下げる。

舞台には既にギターを出しているマキと、バイト着らしきものに着替え同じくギターを構えるマサがすでに立っていた。

二人とも真剣な顔で立ち位置やギターのチューニングを始めていて、ただの同情とかだけで付き合ってくれてるわけじゃないんだと分かる。

久し振りに本気で音楽ができる、そのことに無意識に笑みを浮かべた。

俺達のライブがどうなったかは、また別の物語で、だな。

 


▼Ryo先生の活動はコチラもチェック!

 

よろしければシェア・コメントお願いします!
Ryo
小説家を目指して修業中のRyoです! 青羽シナリオラボという研究会のメンバーとして、色々と活動もしてます。